16時のハードボイルド

ハードボイルド小説や映画、昔のアメリカ小説、時事の色々。

ネタバレ無し「君たちはどう生きるか」世界一わかりやすい感想

f:id:speedx:20230720163200j:image

まず結論から言いたい。

マジで面白かった。ジブリ作品はほぼ見てるけど、上位に入る面白さだ。

宮崎駿作品が好きなら、絶対に見たほうがいい。

いろいろいわれてるみたいだが、難しさとかかけらもない。おれたちはただ素直な心をもって、アニメーションでしかできない表現の冒険活劇を楽しめばいい。

メッセージ性の強いタイトルに反して、メッセージ性とか特に感じ取ろうとしなくて大丈夫だ。ていうかそういうの求めるなら本とか読もう。2時間の商業アニメーション映画にそういうものを仮託しなくていいのだ。深読みしてるやつは自分では気がつかないうちに、頭でっかちか、自己投影してるやつか、承認欲求が欲しいか、自分の感受性が枯れたことにも気づいてないハイチゾンビになってるかもしれないぜ。

まぁ深読みしてもいいし、そういうの話すのもそれはそれで楽しさはあるけど、ふむふむ、このキャラクターはナントカの暗喩で、このセカイはこういう構造になってるのだな、とかそういう深掘りをしたって、結局出てくるのは自分自身なんだよ。

『ベイビー、あんたが探してんのは結局あんた自身なのよ』

 ――舞城王太郎ディスコ探偵水曜日』(新潮文庫

そんなことよりもっと大事なのは、心地よい情景とか、愛らしいキャラクターとか、世界観の不思議を感じることで、日本人が愛したというか日本人に多大な影響を与えた天才クリエイターの創るアニメーションを、存分に劇場で体感してほしいなと思う。

美味しいご飯を食べたとき、ただ美味しいと感じるように、子供の頃のようにかわいいとか危ないとか綺麗とか怖いとか味わってほしい。

子供がいたら見せてあげたいと思う。

後でネタバレありの感想解説も書きます。

 

 

2023年の宅建を受けてみることにした

前から興味があった宅建を受験することにした。
不動産についてなんとなく興味があったのだが、前提となる法律知識が面倒そうで敬遠していた。今月たまたま受験申し込み期限を目にしたので、とりあえず受験申し込みだけしてみるかといったところだ。約8千円、これで勉強するだろう。ちなみに仕事とかリスキリングとか関係なく完全に趣味です。ところで趣味の勉強って一般的にいう勉強とだいぶニュアンスが違うけど、なかなか他に言い換える言葉がない。好奇心で情報収集してるってだけなんだけどね。まぁ受験自体公表するわけではないが、なにしてたの?とか聞かれて、勉強してたとかいうとストイックだねとか言われちゃうのはちょっと違うんだよね。半分楽しみだから。なんかいい言葉ないかな。

とりあえず読みやすそうな、ユーキャンの漫画で学ぶテキストを買い、ぼちぼち目を通しながら、スマホ宅建業法の一問一答を解いてみる。宅建関係のブログなどを読み勉強法を確認しながら、昨日は150問程度解いて、正答率は約60%だった。報酬の限度額なども取引額に応じて細かく決まっていてなかなか面白い。

200万以下 5%
200万超400万以下 4%+2万
400万超 3%+6万

こういう数字って誰がどういう根拠で決めたのだろうと思う。まぁこんなもんだろうというのが事実だったりするんだろうけど。
物価の変動とかで考慮とかされるんだろうか?

あと目を通した限りでは、宅建業法は消費者保護を相当意識した法律だ。取引の相手方がいろいろな確認をできるようにできている。
それだけ情報格差があり、大きな金額が動くからだろう。

宅建士、宅建業の欠格事由についても面白かった。
原則、禁錮以上の刑で欠格事由となるのだが、罰金刑のレベルでも宅建業法、傷害罪、背任罪、脅迫罪、暴行罪などでの違反は5年間の宅建業の欠格事由となる。私文書偽造などではならないらしい。実際これってかなり不穏な罪状ですよね。海千山千の人物がやってくるのだなと感じさせる。
このほかにもいろいろあったので、面白いのがあったら復習がてらのせていきたい。
多くの人が経験したであろう賃貸の時の重要事項の説明義務についても、個人相手には義務付けられているものの、宅建業者が相手であれば説明義務の省略が認められている。(交付は必要)

当面は正答率を上げていくことが目標となる。アプリ等でできるといいのだがそれも探して行こうと思う。
一周目は厳密にやらないように注意する。
時間をかけずにサクサク解いて、確認するくらいでいこうと思う。
前提となる民法の知識は大学の授業でやった程度。他はほぼ素人である。

ある大学教授の話

これはわたしの友達の話だ。

ある大学教授がいた。

彼はその分野において権威だった。著書は何作もあり、そのほとんどにおいて高い評価を得ていた。にもかかわらず、彼は教育熱心でもあり、教授然とした態度ではなく、気さくに、いち個人として学生たちと接してくれていた。

わたしの友達は、教授のゼミに所属していた。

教授の教育は、人を信じることから始まった。難しい問いをかければ、安易に答えを出さず、まず質問者がどのように考えているかを聞いた。それを傾聴したあとに慎重に自分の意見を言った。決して押し付けたりすることはなかった。ゼミの内容についていけない生徒がいれば(わたしの友達はまさにそうだった)、さりげなくフォローし、適切な課題を与える。相談したいことがあれば、当たり前のように、自身のプライベートな時間でも面談をしてくれる。友達が個人的な悩みについて相談をしたいとメールをすると、家庭もあるのに23時から面談をしてくれた。にもかかわらず開口一番、遅い時間に申し訳ないと言われたそうだ。どうしてもしなくてはいけないことが立て込んでいて、といった教授の後ろでは、教授の子供の声がしていた。

友達は彼のような教育者にはあったことがないと言っていた。話を聞くかぎり、それは正当な評価のように思えた。世の中には先生と呼ばれるだけで、自分が偉くなったと勘違いしている大人が多く存在し、そういった人々にわたしたちは子供の頃から辟易させられていたからだ。友達は彼のゼミに所属したことで、専門知識はもちろん、人間的にも大きく成長できたと言ってはばからなかった。彼はもともといい奴であったが、適切なメンターに適切な時期に出会い、成長し一皮剥けた。青年期によくある、しかし人生に大きな影響を与える出会いだった。彼はその出会いに感謝していた。

皆に愛されていたそのゼミを卒業するときに、ゼミ生たちみんなでお金を出し合って、ブランドのネクタイをプレゼントした。教授からもゼミ生たち個人個人にプレゼントをくれた。友達はタイピンをもらって嬉しそうにしていた。友達は進学するか、就職するかにおいてもかなり悩んでいた。いっときは本気でその教授のようになりたいと考えていたようだ。友達以外にもそういう奴は多かったし、大学院への進学率は教授のゼミだけ突出して高かった。結局、友達は就職したが、Facebookにアップされた入社式の写真の胸元には、教授にもらったタイピンがあった。

友達は卒業後も教授と交流があったらしく、教授が新刊を発売すれば、自分の恩師だと宣伝に協力していた。彼のSNSのプロフィール欄には、教授の名前を冠された研究室所属であったことが、誇らしげに記載されていた。

そして、それから数年後、その大学教授は逮捕された。

ニュースはその大学教授が、未成年に対する性加害者だったことを伝えていた。

わたしの友達はなにも言わなかった。

過去の教授との写真を消すこともなかったし、教授の研究室所属であったプロフィールを消すこともなかった。

彼はいったいなにを思うだろう。

わたしの友達を、人として大きく成長させた教授。

そして見知らぬ子供を取り返しのつかないほど傷つけている教授。

ある人物について、語ることはとても難しいことだと思う。

ある人物について語るときに、ただ一つ確かなことは、その語りが不完全であるということだけだと思う。

エルモア・レナード「ゲット・ショーティ」

タフでクールな高利貸しのチリ・パーマーが主人公だ。

映画ではジョントラボルタが演じた。

保険金詐欺で消えた債務者を取り立てにいくうちに、ひょんなことからハリウッドを舞台に映画に一枚かんで大儲けを狙うといったストーリー。

映画監督やプロデューサー、トムクルーズ、ロバートデニーロなども出てきてハリウッド映画が好きな人は特に楽しめると思う。

エルモアレナードは、グリッツ以来二作目を読んだことになる。完成度としてはグリッツの方が高いなと思う。展開としてご都合主義っぽいところはあるのだが、作品を読んでいる間は全く気にならない不思議な作家だ。

普通そうはならんやろと心の中で突っ込んでしまうと少し冷める物だが、そういうところが少ない。なんだろうな?これがレナードタッチというやつなのかもしれない。キャラクターの造形が自然で生き生きとしているからだろうか。

文章は読みやすい。ここのところジムトンプスンとかの一人称の小説を読んでいたせいか、三人称の小説はかったるく感じるところもあったのだけれど、ススっと読めてしまう。

映画プロデューサーのハリーが、大御所俳優のマイケルとレストランで出演交渉をする際のハリーのモノローグが、妙に生々しくて面白かった。どうしても出演してほしいと思いつつハリウッドの独特ルールなどくだらないと思っているハリーの愛憎入り混じっているさまと、映画スターの特異性というのがレストランでの注文という何気ない情景でうまく表現されている。

ちょっと長いが引用したい。

マイケルはチリにひとしきり自分の生い立ちについて語った後、メニューに目を走らせる。

百万ドル賭けたっていい、そのメニューにのってるものなんぞ注文しないから、とハリーは思っていた。花形スターはメニューに掲載されているものをそのまま注文することはない、というのがハリウッドの不文律なのである。スターたる者は、何かしらメニューにのっていないものを注文しなければならない。さもなきゃ、メニューにのってるメインディッシュの調理法を事細かに指示するのだ。といってもそれは、どうせ、クイーンズあたりで育った少年時代に、母親にこしらえてもらったような調理方法にすぎないだろうが。

中略

予想通り事細かにオムレツに揚げたエシャロットを添えて、オレガノ抜きのトマトソースに新鮮なグリーンピースを乗せて注文するマイケル。それを受けてハリー。

ハリーは言ってやりたかった。ああ、あんたはなんでも好きなものを注文すればいいだろうよ、マイケル。どうだい?山羊の蒸し焼きなんか?いま手持ちの山羊がいなけりゃすぐに店のものがつかまえにいくさ。まったく、こうだからうんざりするんだよな、映画俳優相手の仕事は。いっそ映画俳優抜きで映画が撮れればいうことはないんだが。

そしてマイケルは、結局この20ドル以上したオムレツを半分以上残し会計を払うそぶりもせずに颯爽と去っていたさまが次のチャプターのチリと女優との会話で明らかになる。うまい。