16時のハードボイルド

ハードボイルド小説や映画、昔のアメリカ小説、時事の色々。

エルモア・レナード「ゲット・ショーティ」

タフでクールな高利貸しのチリ・パーマーが主人公だ。

映画ではジョントラボルタが演じた。

保険金詐欺で消えた債務者を取り立てにいくうちに、ひょんなことからハリウッドを舞台に映画に一枚かんで大儲けを狙うといったストーリー。

映画監督やプロデューサー、トムクルーズ、ロバートデニーロなども出てきてハリウッド映画が好きな人は特に楽しめると思う。

エルモアレナードは、グリッツ以来二作目を読んだことになる。完成度としてはグリッツの方が高いなと思う。展開としてご都合主義っぽいところはあるのだが、作品を読んでいる間は全く気にならない不思議な作家だ。

普通そうはならんやろと心の中で突っ込んでしまうと少し冷める物だが、そういうところが少ない。なんだろうな?これがレナードタッチというやつなのかもしれない。キャラクターの造形が自然で生き生きとしているからだろうか。

文章は読みやすい。ここのところジムトンプスンとかの一人称の小説を読んでいたせいか、三人称の小説はかったるく感じるところもあったのだけれど、ススっと読めてしまう。

映画プロデューサーのハリーが、大御所俳優のマイケルとレストランで出演交渉をする際のハリーのモノローグが、妙に生々しくて面白かった。どうしても出演してほしいと思いつつハリウッドの独特ルールなどくだらないと思っているハリーの愛憎入り混じっているさまと、映画スターの特異性というのがレストランでの注文という何気ない情景でうまく表現されている。

ちょっと長いが引用したい。

マイケルはチリにひとしきり自分の生い立ちについて語った後、メニューに目を走らせる。

百万ドル賭けたっていい、そのメニューにのってるものなんぞ注文しないから、とハリーは思っていた。花形スターはメニューに掲載されているものをそのまま注文することはない、というのがハリウッドの不文律なのである。スターたる者は、何かしらメニューにのっていないものを注文しなければならない。さもなきゃ、メニューにのってるメインディッシュの調理法を事細かに指示するのだ。といってもそれは、どうせ、クイーンズあたりで育った少年時代に、母親にこしらえてもらったような調理方法にすぎないだろうが。

中略

予想通り事細かにオムレツに揚げたエシャロットを添えて、オレガノ抜きのトマトソースに新鮮なグリーンピースを乗せて注文するマイケル。それを受けてハリー。

ハリーは言ってやりたかった。ああ、あんたはなんでも好きなものを注文すればいいだろうよ、マイケル。どうだい?山羊の蒸し焼きなんか?いま手持ちの山羊がいなけりゃすぐに店のものがつかまえにいくさ。まったく、こうだからうんざりするんだよな、映画俳優相手の仕事は。いっそ映画俳優抜きで映画が撮れればいうことはないんだが。

そしてマイケルは、結局この20ドル以上したオムレツを半分以上残し会計を払うそぶりもせずに颯爽と去っていたさまが次のチャプターのチリと女優との会話で明らかになる。うまい。